INTERVIEW

経済環境社会評議会(CESE)と気候市民会議

Pierre Houpikian フランス経済環境社会評議会(CESE)
インタビュー実施日:2019年12月4日/場所:CESE(フランス・パリ)

甲斐沼: 今日はお時間を頂きありがとうございます。まず経済環境社会評議会(CESE)について教えて下さい。

Houpikian: フランスには元老院(上院)と国民会議(下院)があります。そこは法律を作る場です。CESEは憲法で決められた評議会ですが、法律を作る権限はなく、政府や議会へ助言する機関です。

甲斐沼: CESEはいつ作られたのですか。

Houpikian: まず、第一次世界大戦後、労働組合の役割がより重要となり、彼らの意見を反映するために、1925年に経済評議会が47名でスタートしました。1936年4月に行われた議会選挙で人民戦線派が圧勝し、社会党のレオン・ブルムを首班とする人民戦線政府が成立しました。当時経済評議会の評議員も200名ほどに増えましたが、第二次世界大戦でドイツに占領されている間は経済社会評議会の活動は停止しました。第二次世界大戦後、1946年に制定された第四共和制憲法で経済評議会が規定されました。当時の評議員は146名でした。その後1958年に制定された第五共和政憲法で、経済社会評議会となり、評議員は200名ほどになりました。サルコジ大統領は2008年に現在の経済社会環境評議会を立ちあげました。

甲斐沼: 憲法で規定されている評議会なのですね。

Houpikian: はい。第三の憲法制定会議です。現在233名の評議員、18のグループによって構成されており、男女比ほぼ半数ずつ(女性が48%)です。グループには、労働組合、雇用主の組織などがあります。2010年には、一般の人々や学生の代表も加わるようになりました。家族協会や環境保護団体なども入れて80機関から代表が入っています。232名の他に、評議員ではありませんが、60名の活動メンバー(associative personalities)がいます。また、それぞれ約30名の評議員で構成される12の委員会があります。

甲斐沼: CESEはどのような活動をされているのでしょか。

Houpikian: CESEの主な役割は政府や議会、もっと一般的に言えば、経済、社会、環境に関するすべての関係者に助言したり、公開討論をサポートすることです。特定の内容に関して助言する40~50ページの報告書を毎年20件ほど出版しています。

甲斐沼: トピックはどのように決めるのですか

Houpikian: CESEが助言するトピックを決めるのは3つの方法があります。一つ目は政府か議会からの依頼です。二つ目は請願です。一定数以上の署名があれば対応します。三つ目は我々自身からの提案です。いったんトピックが決まったら、ビューローと呼ばれる政府機関が指令を出します。受け持つ委員会や仕事の構成が決まり、3~4ヶ月で評議会の報告書を作成します。報告書はWebにも掲載されます。報告書が出来上がると、影響力のある人々を訪問して、我々の提言の推進活動を行います。

甲斐沼: 扱うトピックに制限はないのですか。

Houpikian: 経済、社会、環境に関するトピックなのでかなり幅広いです。しかし、外交防衛などの主権に関するトピックは扱いません。しかし、2~3年前に、移民に関する助言を行ったことがあります。これは社会問題でもありますが、外交問題でもあります。また、刑務所から出所した人々の社会復帰についての助言をしたこともあります。

甲斐沼: 我々は気候変動問題を研究しており、気候市民会議に興味があります。気候市民会議について教えて頂けませんか。

Houpikian: CESEはこれまでも環境と気候に関したトピックを定期的に扱ってきました。最近フランスで最も話題になったことの一つは、1年ほど前の2018年11月に始まった黄色いベスト運動です。この運動は環境税を強化するために燃料税を上げたことに端を発しました。人々は強硬にこの値上げに反対しました。特に、地方や小都市で移動に車を必要とする人々からの反対が大きかったです。そして、CESEでは、環境の移行を考える時に、生態学的な移行と同時に、フランス社会のもろさを考え合わせた道を見つける必要性があると認識しました。マクロン大統領からの最初の提案は国民大討論でした。気候変動への対応と日々の生活との協調に関する国民大討論は2019年1月~3月に実施され、危機を脱する一応の成果を納めました。

甲斐沼: CESEは関与されたのでしょうか。

Houpikian: CESEは、2019年3月に国民大討論に貢献するため「分断と移行」報告書を出版し、もし、大統領がフランスのあらゆる場所のあらゆる人々の声を聞きたいのであれば、CESEはそれを援助する用意があることを表明しました。そして3ヶ月後の2019年6月に、マクロン大統領は初めての試みである気候市民会議の開催を決めました。CESEと環境連帯移行省がその運営に関与することになりました。

甲斐沼: 気候市民会議が開かれることになったのですね。

Houpikian: 最初の会議は10月4~6日にCESEの本部があるイエナ宮で開催されました。参加者はフランスの幅広い層を代表するため、ランダムに150人が選ばれました。会議は金曜日の午後から土・日にかけて行われることになりました。参加者は一般市民なので、CESEは気候変動に関する情報を提供したり、会議のファシリテーターを揃えたりなど、会議が円滑に進むよう努力しています。最初の会合は一般的な議論をしましたが、2週間前に行われた第3回会合では(2019年11月15日~17日)、最初の提案が検討されました。非常に質の高い議論がされていると認識しています。大統領は気候市民会議からの提案を大きく変えることなく採用すると約束しています。CESEには法律の専門家もいるので、市民からの提案を法律に即した用語に直す助けをすることも検討されています。

CESEには気候市民会議のための追加的予算が配分されました。予算は参加者の旅費や休職保障、ファシリテーター経費などに支出されています。

CESEは2019年3月の気候市民会議に関する報告書の発表に続いて、6月、7月にも関連する報告書を発表しました。これらの報告書は情報提供に役立っています。

石川: 150人の市民はランダムに選ばれたのですか。市民の中には必ずしも気候変動に詳しくない方もおられるのではないでしょうか。全員が参加できるようどのような努力をされたのでしょうか。

Houpikian: できるだけ必要な情報が、できるだけ早く届くようにしました。10月の第1回の会合は、ほとんど全てのセッションが参加者の気候変動に関する情報レベルを上げるために企画されました。専門家を呼んで説明をお願いしました。参加者のレベルが違っていたので、全員を同じレベルに引き上げるのは非常に困難でしたが、最大限の努力をしました。CESEの報告書や環境連帯移行省が用意した資料なども活用しました。

石川: 議論は5つのグループに分けて行われたと聞いていますが、それぞれのグループにファシリテーターがいるのですか。

Houpikian: そうです。気候市民会議に用意された予算でファシリテーターを雇いました。その他に、ジャーナリスト、研究者や違った立場の方々に来て頂き、市民をサポートして頂いています。時には、市民よりもファシリテーターの方が多いのではとジョークを言うこともあります。ファシリテーターの存在は非常に重要です。彼らの助けがなければ良い結果を出すのは難しいです。

残念ながら12月6日から予定されていた会合はストライキのために延期になりました。しかし、2020年2月か3月には最終の提案が出されると期待しています(ストライキの為、および会合が追加されたために、最終会合は4月3~4日となった)。マクロン大統領は最終提案が出される前にどこかのセッションに出席することが予定されています。(マクロン仏大統領は1月10日の気候市民会議の会合に出席し、会議が提案する措置の一部を、国民投票を通じて実現する可能性に言及した。)

甲斐沼: 市民会議のような新しい試みは今後も行われるのでしょうか。

Houpikian: 我々は選挙で選ばれた議会と行政府による政治を政治的民主政治(Political democracy)と呼んでいます。CESEで行われている活動は社会的民主政治(Social democracy)と呼んでいます。経済活動、社会活動、環境活動を代表する人たちが集まった評議会での活動です。そして今私たちが行っているのは、第3の民主政治である直接民主政治(Direct democracy)と言えるかと思います。

これらはすべて民主主義に生命を与える方法であり、私たちはそれをこの評議会で共有していると思います。より一般的に言えば、フランスでは世界が変化していることを共有していると思います。気候変動、人口統計学、生物多様性などの新しい課題のために、各国で協力する必要があります。

これらの私たちが直面している緊急事態に対応するためには、おそらく新しいフェーズが必要です。公共の意思決定プロセスと民主主義を伝統的な方法で組織することは、短期間で適切な決定を下すことが要求されている私たちが直面する課題に対処するには十分でないかもしれません。これが、直接民主主義の実験の必要性が生じた一般的な状況だと思います。

それに貢献する別の課題はデジタル革命です。誰もがインターネットで意見を述べ、それを共有できるようになったとき、直接民主主義を避けることは難しいと思います。市民会議は、このデジタル革命を考慮に入れるための課題に答える方法でもあると思います。

ちなみに、市民会議は、もちろんここで物理的に機能しますが、この電気的手段によってすべてのプロセスに対して市民が反応し、交換できるプラットフォームをインターネット上に実装しました。

甲斐沼: 今日はお忙しいなか貴重な情報をお聞かせ頂きありがとうございました。

 

参考文献*

1)経済社会環境評議会、分断と移行、2019年3月

https://www.lecese.fr/sites/default/files/pdf/Avis/2019/2019_06_fractures_transitions.pdf(本文)https://www.lecese.fr/sites/default/files/pdf/Fiches/2019/FI06_fractures_transitions.pdf(概要版)

2)Marc Blanc(CESE),CLIMAT, ÉNERGIE, BIODIVERSITÉ.CONTRIBUTION DU CESE À LA CONVENTION CITOYENNE, 2019年7月

https://www.lecese.fr/sites/default/files/pdf/Fiches/2019/FI20_climat_energie_biodiversite.pdf(概要版)

*いずれも最終アクセス日:2020年3月15日

 

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