INTERVIEW

温室効果ガス削減に関する需要側削減についての文献調査及び関係者へのインタビュー報告書

脱炭素社会研究ネットワーク 甲斐沼 美紀子、石川 智子

Ⅰ. はじめに

これまでのIPCC評価報告書ではどちらかと言えば技術的な側面に焦点が当てられていたが、2022年に発表されたワーキンググループ3(WG3)の第6次評価報告書(AR6)では「需要、サービス、緩和の社会的側面」に焦点を当てた章が新たに加わった[1]。その技術報告書(TS)[2]は、3つの最終用途分野 (建物、陸上輸送、食品) におけるGHG排出量は、2050年までに世界全体で40~70%削減可能であるとした。

IPCC AR6 WG3 Box TS.11[3]、では、需要側の緩和に関与する主体として、個人(例:消費の選択、習慣)、グループおよび集団(例:社会運動、価値観)、企業主体(例:投資、広告)、機関(例:政治機関、規制)、およびインフラストラクチャ関係者(非常に長期的な投資と融資など)の5つを取り上げGHG排出量の削減可能性を示している。また、変革のためには、行動、文化、制度、インフラの変化のすべてに関する社会科学的洞察を政策設計と実施のために活用し、5つの主体すべてにわたって協調的な行動をとることが必要であると指摘している。表5.1では、対策の手段として、回避、シフト、改善を取り上げ、個人、世帯、コミュニティの役割を論じている[4]。これらの選択は、ロールモデルや、政策や社会運動によって変化する社会規範によって促される。また、都市計画者や建築・運輸の専門家が設計した適切なインフラ、それに対応する投資、需要側の緩和行動を支持する政治文化も必要であると指摘している。

インタビューしたIDDRIのYann Briand博士によると、需要側削減は、戦略やその成果がオーバーラップしているので、定義するのは非常に難しいとのことである。需要側戦略は人々の行動を変えることであると定義する人がいる。また、エネルギーシステムのなかで、供給と需要を考える人がいる。IPCC AR6の交通の章では、システム的変化(Systemic Change)の節ができた。システム的変化とは、システムの構造に影響を与える新しい組織パターンの出現を意味する。これまでは主に、温室効果ガス排出量を軽減するためのエンジンや燃料技術に注目が集まっていた。温室効果ガス排出量を削減するには、人口動態、金融および経済システム、都市の形態、文化、政策などを考えることが重要となってきている。こうしたシステム的変化は、温室効果ガス排出量と経済成長とのディカップリングの機会を提供する。


[1] IPCC (2022) Climate Change 2022: Mitigation of Climate Change (AR6 WG3). Chapter 5: Demand, services and social aspects of mitigation. https://www.ipcc.ch/report/ar6/wg3/chapter/chapter-5/

[2] IPCC (2022) Climate Change 2022: Mitigation of Climate Change (AR6 WG3). Technical Summary. TS.5.8, p.71. The indicative potential of demand-side strategies to reduce emissions of direct and indirect CO2 and non-CO2 GHG emissions in three end-use sectors (buildings, land transport, and food) is 40–70% globally by 2050 (high confidence). https://www.ipcc.ch/report/ar6/wg3/

[3] IPCC (2022) AR6 WG3 Technical Summary. Box TS.11, p.71.

[4] IPCC (2022) AR6 WG3. 表5.1. p.528.


Ⅱ. 回避(Avoid)、シフト(Shift)、改善(Improve)の視点からの温室効果ガス排出量の削減

低炭素/脱炭素なシステムを実現させる戦略に、回避、シフト、改善がある。その戦略は主体によって違う。交通システムを例にとると、個人がとれる行動としては、自宅勤務などで交通量を減らす(回避)、車から公共交通に変える(シフト)、効率の良い車に乗る(改善)などがある。一方で、政府機関やインフラストラクチャ関係者が取れる戦略としては、コンパクト・シティによる移動量の減少(回避)、公共交通システムの整備によって、公共交通に乗り換える人を増やす(シフト)、公共交通への低炭素車両の導入(改善)がある[5]。

図1 低炭素交通システム設計のアプローチ

出典:アジア低炭素社会研究プロジェクト(2011)アジア低炭素社会に向けた中長期的政策オプションの立案・予測・評価出の開発とその普及に関する総合的研究

Creutzigら[6]は回避、シフト、改善に分類された需要側のオプションの緩和の可能性と、それらの人間の幸福との関連性を体系的に評価した。これらのオプションは、社会行動、インフラストラクチャ、技術の領域を考慮することで、最終用途部門でベースラインと比較して部門別排出量を40~80%削減できることを示した。

ASI(回避、シフト、改善)オプションにより、高い排出量削減効果が得られる (図2)。すべての部門において、最終用途戦略は排出量の大部分を削減するのに役立つ。その範囲は、工業部門の 41% (CO2換算で6.5ギガトン (GtCO2e)) の排出削減から、食品部門の41% (7.3 GtCO2e)、陸上輸送部門の62% (5.8 GtCO2e) の排出削減、そして建築部門の78%(6.8 GtCO 2e)に及ぶ。

回避オプションには、建物では、住宅サイズの縮小、コンクリートや鉄鋼などの炭素集約型建材の削減、照明センサーを利用して人工光の需要を削減すること、パッシブハウスによるエネルギー需要の削減などが含まれる。運輸では、コンパクト・シティの設計による移動距離の短縮、在宅勤務による交通量の削減、安全な歩道や自転車道のインフラ整備による車の使用量の削減などが含まれる。食品では、食品の廃棄を削減が含まれる。産業では、シェア経済の推進により、製品の生産量を減らすことが含まれる。

シフトオプションには、建物では、低炭素の燃料や再生可能エネルギーへのシフトが含まれる。交通では、徒歩・自転車や公共交通へのシフトが含まれる。食品では、肉食からベジタリアン食へのシフトが含まれる。産業では、生産プロセスのシフトが含まれる。産業では、寿命の長い製品の生産や古い部品の再利用が含まれる。

改善オプションには、建物では、断熱やヒーティングシステムの改善、家電製品の効率化が含まれる。運輸では、車の効率改善、車両の改善などが含まれる。産業では、エネルギー効率の良い生産プロセスの採用が含まれる。

これらのASIオプションは、総合的に使われることによって、さらに温室効果ガス排出量を減らすことができる。


[5] アジア低炭素社会研究プロジェクト(2011)アジア低炭素社会に向けた中長期的政策オプションの立案・予測・評価出の開発とその普及に関する総合的研究. p.14. https://2050.nies.go.jp/file/S-6_leaflet_J.pdf

アジア低炭素社会研究プロジェクト(2014)アジア低炭素社会実現に向けて. pp. 4-7. https://2050.nies.go.jp/file/ten_actions_2013_j.pdf

[6] Creutzig, F., Niamir, L., Bai, X. et al. (2022) Demand-side solutions to climate change mitigation consistent with high levels of well-being. Nat. Clim. Chang. 12, 36–46. https://doi.org/10.1038/s41558-021-01219-y


図2 ASI(回避・シフト・改善)オプションに分類される最終用途部門における緩和の可能性

出典:Fig. 1: Mitigation potentials in end-use sector classified in ASI options. Creutzig, F., Niamir, L., Bai, X. et al. (2022) Demand-side solutions to climate change mitigation consistent with high levels of well-being. Nat. Clim. Chang. 12, 36–46.

ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)のSteve Pye博士へのインタビューでは、「我々は長い間エネルギー供給側に重点をおいたモデルを開発してきており、需要側の問題にこれまで適切に対処してこなかった。最近我々は、需要側をより詳細に調査することにより、二酸化炭素除去技術が不要であると論じたGrublerらの論文[7]などからインスピレーションを得て需要側の問題にも取り組むようになった。英国の気候変動委員会によって指導されている英国の戦略には、まだ多くのCCSを含む二酸化炭素除去の選択肢がある[8]。しかし、英国ではこれが少し問題になりつつある。だから、我々は、需要側の解決策を模索している。需要側で何ができるかを真剣に検討すれば、CCSなどの将来のCO2除去技術に頼ることを減らせると思っている。」との話があった。

Pye博士はBarret博士らと共に、モデルを用いて、英国のエネルギー需要の削減可能性について分析した[9]。重要なこととして、このようなエネルギー需要側の戦略は、生活の質を損なうことなく、むしろ健康的なアクティブなライススタイル、都市の大気汚染の低減、ワークバランスの改善など、気候変動対策の副次的効果を実現することをあげている。Barret博士らとの共著の論文9では、Creutzigら7の「需要側評価フレームワーク」 を通じて、不必要なエネルギーサービスを回避し(例:移動の必要性を減らす)、サービスを提供するために最も強度の低いモードに移行し(例:自動車から公共交通機関またはアクティブな交通機関へのモーダルシフト)、エネルギー効率を向上することを検討した。検討したシナリオは無視シナリオ(現状の対策のみ)、舵取りシナリオ(温暖化対策を強化するが、2050年ネットゼロの目標には届かない)、シフト・シナリオ(エネルギー需要側対策の強化)と移行シナリオ(技術・社会・インフラ・制度の変化に着目)の4つである。シフト・シナリオと移行シナリオが、回避/シフト政策とエネルギー効率改善とがエネルギーサービス需要に与える影響について、無視シナリオと比較した結果が図3である。いずれの場合も、産業部門での回避/シフトの影響が大きい。また、移行シナリオでは、非住居用建物でのエネルギーサービス需要の削減に回避/シフトが占める割合が大きくなる。


[7] Grubler, A., Wilson, C., Bento, N. et al. (2018) A low energy demand scenario for meeting the 1.5 °C target and sustainable development goals without negative emission technologies. Nat Energy 3, 515–527. https://doi.org/10.1038/s41560-018-0172-6

[8] Global CCS Institute (2019) UK Committee on Climate Change highlights crucial role for carbon capture and storage in achieving a net-zero target in the UK. https://www.globalccsinstitute.com/news-media/press-room/media-releases/uk-committee-on-climate-change-highlights-crucial-role-for-carbon-capture-and-storage-in-achieving-a-net-zero-target-in-the-uk/

[9] Barrett, J., Pye, S., Betts-Davies, S. et al. (2022) Energy demand reduction options for meeting national zero-emission targets in the United Kingdom. Nat Energy 7, 726–735. https://doi.org/10.1038/s41560-022-01057-y


全体として、英国では、国民の生活の質を損なうことなく、2020年レベルと比較して2050年までにエネルギー需要を52%削減することが可能であることを示した。移行シナリオが示すエネルギー需要の削減が進めば、高リスクの二酸化炭素除去技術への依存を減らすことができること、このためには、ある程度の投資が必要であり、気候変動対策の野心を高める必要があることを示した。国の気候政策はエネルギー供給と需要削減について、統合した政策を進める必要があると結論付けている。

図3 回避またはシフトする対策と効率改善がエネルギー サービス需要削減に与える相対的な寄与度。現状の対策のみのシナリオとの比較。

Ⅲ. 住宅部門での脱炭素化

Escribeらの論文[10]によると、住宅の建物における温室効果ガス (GHG) 排出量の削減は、住宅の断熱、低炭素暖房システムへの切り替え、暖房用燃料の脱炭素化という3つのチャネルに依存しているが、これらは一緒に評価されることはほとんどない。それらの組み合わせは、エネルギーシステムのトップダウン計画と、住宅部門の分散型政策、特に断熱補助金との相互作用を考える必要がある。彼らの論文では、フランスを対象として、断熱補助金の設計がこれら3つのチャネル間の努力の配分にどのような影響を与えるかを検討している。カーボンニュートラルを達成するための最も費用対効果の高いベストなシナリオを想定すると、住宅の断熱によって20%、燃料切り替えによって36%、燃料の脱炭素化によって45%の排出量を削減できることがわかった。ただし、これには完全に的を絞った補助金が必要である。

温室効果ガス削減の観点からベストなシナリオは、異なる世帯でのエネルギー効率の障壁を無視している。たとえば、ベストなシナリオでは、住宅において最も費用対効果の高い断熱対策を最適に選択するが、居住者が低所得層の場合、その対策への投資のためのお金を借りることができないという問題がある。エネルギー効率が最も低い住宅に住んでいる低所得世帯の罹患率と死亡率が高いという最近の報告に基づいて、彼らは目的関数に医療費を含めた分析もしている。彼らは、次善の策として、一律に補助金を与えるシナリオ、包括的な検討をするシナリオ、エネルギー削減に応じた補助金の3つの代替シナリオを検討している。より現実的な3つの代替シナリオでは、システムの総コストが11~16%増加した。論文は、断熱材と燃料切り替えの間のトレードオフを決定する際に補助金の仕様が重要な役割を果たすことを強調している。たとえば、包括的な対策を考慮して補助金を支給する場合、一律に補助金を支給するシナリオと比較して、断熱材への投資は2倍になり、ヒートポンプの導入への投資は19%低くなる。


[10] Escribe, C., Vivier, L, Giraudet, LG., Quirion, P. (2023) How to allocate mitigation efforts between home insulation, fuel switch and fuel decarbonization? Insights from the French residential sector. ffhal-04200061v2f. https://hal.science/hal-04200061/document


Ⅳ. エネルギー需要削減のための法・規則の例

2019年から2020年に開催された気候市民会議での提言をもとに、気候・レジリアンス法が2021年に施行された。気候・レジリアンス法では、鉄道で2時間30分以内に移動できる距離での国内線航空便の運航を禁止した。廃止にあたってはいろいろな条件が考慮された。例えば、コネクティングフライトやプライベートジェットは含まれなかった。2018年に炭素税の値上げが発表されたのが引き金になって全国的に黄色いベスト運動が展開された。この時は、燃料の値上げが直接生活に影響する地方での反対運動が大きかった。Briand博士によると、今回は直接影響を受ける人が少ないので、受け入れられたのではないかとのことである。

気候・レジリアンス法では、自転車インフラへの資金調達の加速に関するいくつかの条項や提案、政策が盛り込まれている。例えば、自転車のシェアに関する目標を掲げている。2024年に9%、2030年に12%になる予定である。自転車インフラを促進するものとして、都市ごとに州がインフラの一部に協調融資を行うことになっている。

Briand博士によると、「人口15万人以上の大都市圏すべてに低排出ゾーンを設けようとしている。大都市圏に進入する車両を規制し、排出ガスレベルと比較して規制し、段階的に車両を排除するようにしている。これには問題もある。フランスで古い車を使用している人の多くは貧しい人である。彼らにどのように対応し、公共交通機関に変えるかという問題がある。これもモーダルシフトに関する別の問題である。また、インフラを整備するのが国の責任か、都市や地方の責任かという問題もある。例えば、都市周辺と都市を統合して適切なモビリディ・ポリシーを実行する権限を誰に与えるべきかという問題である。インフラ計画や土地利用計画を中心とした需要側の行動について、一貫した考えを持つ必要がある。」とのことである。

Briand博士からは、需要側のシステム変化にとって重要な「エネルギー効率の証明書[11]」についても興味深い制度として紹介された。フランスで2005年に作られた制度で、エネルギー販売者(電気やガソリンなどを販売している業者)に、エネルギー消費を削減する義務を負わせる制度である。エネルギーの販売者にはエネルギー消費の目標が与えられる。エネルギー販売者は自社の目標を達成するために、義務を負っていない人がエネルギー消費を削減した場合に、その証書を買って、自社の目標達成に充てることができる。例えば、市民が建物の改修をしてエネルギー消費を削減する場合などに適用される。興味深いことは、エネルギーを売っている企業が省エネを促進してエネルギー消費量を削減するために、お金を提供していることである。運輸については、エネルギー効率の良い車に変える、エコドライブを運転者に教える、カーシェアサービスの実行などを行った場合に証明書が発行される[12]。

Briand博士によると、「エコドライブなどの個別の対策だけでは十分ではないとのことである。より大きなモーダルシフトが必要とのことである。フランス政府は、企業が交通機関からの排出量と、排出量削減のための行動計画を提出することを義務とする政策を導入した。責任があるのは運輸業者だけではなくて、運輸システムを利用する人にもある。輸送する人だけでなく、産業メーカーなどの販売する人にも責任を持たせることは重要である。以前は、運輸計画は道路を作ることだけだったが、今は生産者も含めて、温室効果ガス排出量の削減に取り組む必要がある。現在は行動計画を示すだけであり、荷主にどのように責任を負わせるかといった問題が残っている。現在できることは透明性を高めることである。」とのことである。

インタビューしたCIREDのThomas le Gallic博士からは政府が現在議論している環境計画についての紹介があった[13]。「住宅やサービス分野などの取り組みの多くは従来のものを継承しているが、いくつか新しい試みがあるとのことである。例えば、包括的な改修を促進するために建築専門家を訓練したり、改修プロセスの複雑さを軽減するための支援を提供するなどが検討されている。しかし、従来からの建築方法を変えるのは難しく、時間がかかるとのことである。移動についても革新的なものはあまりない。しかし、いくつか例をあげれば、首都圏の地方特急サービスについて、いくつか構造的、運用上の措置を検討している。自転車インフラへの投資も行われている。また在宅勤務の推進についても検討している。」とのことである。


[11] 省エネ証明書. https://fr.wikipedia.org/wiki/Certificat_d%27%C3%A9conomie_d%27%C3%A9nergie

2020年発行の省エネ証明書の説明. https://www.ecologie.gouv.fr/sites/default/files/Catalogue%20programmes%20Complet_v16072020.pdf

[12] 運輸でのエネルギー効率証明書. https://www.francemobilihtes.fr/demarches-partenariales/cee-et-mobilites

[13] 例えば “Mieux agir : planification écologique”。また、https://www.ecologie.gouv.fr/simplification-du-parcours-renovation-des-logements-publication-du-decret-relatif-simplification


Ⅴ. システム的な変革

Briand博士は、インフラ開発もエネルギー需要に影響を与える体系的な変化の一部と捕らえる。彼は、需要側戦略は、いろいろな要素を含み非常に複雑であるが、狭い意味で使われることが多いと指摘する。例えば、企業が、「我々は需要側戦略を持っている」と言っているのを聞くことがある。国際海上輸送に関して2023年に発表された戦略[14]では、エネルギー効率改善と燃料転換の2つの柱だけが考慮されている。海上輸送企業はより低炭素な燃料であるアンモニアや水素を利用するために、水素を要求することを需要側戦略と考えている。しかし、これらは貿易の構造変化に影響を与えないため、Briand博士は、エネルギー効率改善と燃料転換は需要側の行動ではないと考える。Briand博士にとっての需要側行動は、輸送する荷物量を変えたり、それを生産する際に発生するGHG排出量も含んだものである。サプライチェーン全体を考慮する必要があると彼は指摘する。

ネットゼロ達成に交通部門でシステム的変化が重要であるとの記事をVillain, Briand, Waismanらは2021年にIDDRIから発表した[15]。本記事で、彼らは3つのビジネス変革を取り上げている。それらは、1)既存の産業プロセスを再検討して貨物輸送の数を削減すること、2)製造施設とサプライヤーを刷新して、サプライチェーンを削減すること、3)物流組織の変更と輸送サービスレベルを引き下げることにより、物流の統合を支援し、モーダルシフトを促進することである。以下にこれらの説明を示す。

1) 既存の産業プロセスとビジネスモデルの再検討

既存の産業プロセスやビジネスモデルは、環境や気候への影響を考慮せずに開発されてきた。その結果、例えば、材料の過剰消費が生じ、製品の多様化の開発や計画的陳腐化[16]など、より多くの販売を目指す現在のビジネス戦略が不必要な輸送需要を生み出す原因となっている。今世紀半ばまでにゼロエミッション貨物輸送とカーボンニュートラルを達成するには、不必要な貨物輸送を削減しながら、材料の消費を減らし、製品の環境フットプリント[17]を削減する必要がある。企業の場合、これには、ビジネスモデル、製品やサービスの設計と製造プロセス、およびパッケージングを完全に見直して、小型化、軽量化するだけでなく、より再利用可能、リサイクル可能、修理可能にし、化石ベースの材料の使用を生物由来の材料に置き換えることになる。また、製品の再利用、修理可能性、リサイクル可能性を志向した新しいサービスの開発につながる可能性もある。

これらの製品変更やサービス革新の中には、強力な革新的能力と、研究開発やインフラ適応への多額の投資が必要なものもあるが、それらは、新たな成長ビジネスに向けて競争上の優位性を獲得し、移行リスクを回避する上で長期的な利益をもたらす可能性がある。

この事業変革により、生産の初期段階で必要なエネルギーと材料の量が制限され、中長期的には寿命が延びるため、製造される製品とパッケージの数が減少する可能性がある。消費される材料が減り、車両内のスペースや重量が節約されることで、配達の必要性とそれに関連するエネルギー消費、排出量、コストを削減できる。

2) 製造施設とサプライヤーの見直し

過去数十年にわたり、サプライヤーと製造施設の両方の所在地の選択は、コスト削減や対象市場での品質と可用性の確保などのビジネスパラメータ間の複雑なトレードオフの結果だった。しかし、気候変動や排出削減は長い間考慮の外に置かれてきた。社会的・環境的基準の厳格さが緩和され、生産コストが低下することで利益を得ている競合他社との緊張が高まっているため、多くの企業は、原材料を調達し、製造拠点(半製品と完成品の両方)を安価であれば世界中に配置することを決定した。その結果、サプライチェーンは非常に長く、分散した。今後数十年で、カーボンニュートラル経済を推進することは、サプライチェーンがより短くなり、社会的責任が高まることを意味する[18]。企業は、自社製品のバリューチェーン全体を通じて、産業施設とサプライヤーのローカリゼーションを再考する必要がある。ほとんどの製品では、生産と消費を地域ハブで再編し、原材料とリサイクル材料を地元で調達し、産業プロセス全体を顧客の近くに設定することができる。

この大きな変革には、まずプロセスのさまざまなステップをすべて見直し、市場の場所に応じて施設とサプライヤーの場所を再検討する必要がある。このような変革はコストの増加をもたらす可能性があり、工場従業員の適切な社会的移行を確保する必要がある一方で、サプライチェーンの回復力を高め、地域の雇用と経済に利益をもたらし、顧客の受容性を高める可能性もある。たとえば、ヨーロッパでは、新型コロナウイルス危機の間にヨーロッパ国外からの有効物質の供給が停止したため、パラセタモール[19]の生産が中断された。これを受けて、欧州の主要製薬グループ向けにこの活性物質を製造する企業は、2023年に欧州連合に工場を開設する計画を立てた。

場合によっては、産業プロセスの1ステップだけを移行することは不可能であり、産業プロセスやビジネスモデル自体に、より根本的な変更が必要になる場合がある。たとえば、農産食品ビジネスでは、食料はほとんど地元で調達できるが、必ずしもまったく同じ製品であるとは限らない。したがって、より季節性の高い商品を提供したり、場合によっては多様性の低い商品を提供したりするなど、代替手段を見つける必要がある。他の産業では、これは、生物由来でリサイクル可能な地元の代替材料や中間製品を新たに見つけることを意味し、生産プロセス全体の変革を意味する可能性がある。

これらのビジネス変革には強力な地域計画とインセンティブが必要であるが、サプライチェーンの断片化を短縮および軽減し、(完成品と半製品の両方の)商品および関連する貨物輸送の移動キロメートルを削減できる可能性がある。これにより、エネルギー消費とそれに関連する排出物の回避が直接可能になるが、海上輸送や航空への依存(完全な脱炭素化には費用がかかり、多くの技術的不確実性が伴う)の削減にも役立ち、陸上輸送手段とその電化の利用を促進することもできる。

3) 物流組織の変更と輸送サービスレベルの低下

ほとんどの企業はジャストインタイムの物流組織に依存しているため、在庫コストと社内物流コストが削減され、輸送配送の柔軟性と速度の点でサービス水準が向上する。多くの業界では、出荷の平均サイズは縮小されているが、その頻度は増加し、小規模な配送の数が劇的に増加し、積載率が減少し、車両の走行距離が増加している。これは、提供されるサービスの質に比べて輸送価格が低いこと、また、これらのより小規模でより迅速かつ柔軟な配送に関連するすべての社会的および環境的外部性とコストが統合されていないことによって生じている。ゼロエミッションの輸送世界では、配送コストには炭素排出や渋滞などの社会環境への影響が含まれ、効率化対策が奨励されることになる。したがって、企業は道路貨物や車両に代わるより効率的な代替手段を使用する必要があり、そのためには物流組織を見直し、輸送および物流のサービスレベルを変更する必要がある。

この変革には、生産チェーンにおける最終製品と中間財の両方の在庫量を拡大し、柔軟性を少し失うだけでなく、産業プロセス計画を変更し、企業が協力する倉庫の数を増やすか、少なくとも倉庫の規模と場所を調整する必要がある。例えば、重要な顧客を持つコミュニティのメンバーは、工場から数千マイル離れた場所にあり、毎週航空便で配送する必要があるため、顧客に近い別の倉庫を使用して生産計画を調整し、製品を航空ではなく鉄道または道路で移動することにした。この解決策は最終的に、よりコスト効率が高く、二酸化炭素の排出量も少なくなった。 他のケースでは、全体的な物流コストの変化は、さまざまな輸送モード、保管および資本資産のコストに依存する。

同様の状況で、別のコミュニティのメンバーは、産業プロセスを変更せずにフローを統合するために、配送速度を落として配送数を減らすことを決定した。これには、顧客との関係、製品の入手可能性、戦略、在庫の変更が必要だった。Business to business市場では、最初のオファーと契約がこれらの効率化ソリューションを模索し始めている。

これらの対策を講じることにより、貨物輸送部門からの温室効果ガスを削減できる。しかし、たとえ企業がこうした構造変化の最前線に立っていたとしても、企業の選択は地域および世界の市場ルールや特定の経済的、社会的、地理的、政治的な国家的状況に組み込まれている。たとえば、再利用、修理、リサイクルを行い、製品の寿命を延ばす、より循環型経済に向けて産業プロセスとビジネス モデルを見直すことは可能であるが、顧客がより低価格で製品のカスタマイズと多様化を期待している場合、現時点では実装が複雑である。

これには、顧客の好みと産業プロセスの両方の変化が必要であるが、これを加速し、大規模に実施するには、制約とインセンティブを備えた適切で公平なビジネス環境を提供する適切な公共政策が必要である。


[14] ClassNK. Pathway to Zero-Emission in International Marine shipping – Understanding 2023 IMO GHG Strategy –. https://www.classnk.or.jp/hp/pdf/info_seSvice/ghg/PathwaytoZero-EmissioninInternationalShipping_ClassNK_EN.pdf

[15] Harry-Villain, L., Briand, Y., Waisman, H., Major, M., Castillo, L. (2021) Companies and carbon neutrality, a story of systemic transformations and cooperation: Illustration on the freight transport sector, Iddri, Note, November. https://www.iddri.org/sites/default/files/PDF/Publications/Catalogue%20Iddri/Autre%20Publication/202111-Note%20transport.pdf

[16] 計画的陳腐化(Planned obsolescence)とは、製品の寿命を人為的に短縮する仕組みを製造段階で組み込んだり、短期間に新製品を市場に投入することで、旧製品が陳腐化するように計画し、新製品の購買意欲を上げるマーケティング手法のこと。1920年代に、ゼネラル・モーターズ(GM)の礎を築いたアルフレッド・スローンが始めたビジネスモデル。バーナード・ロンドンの著書『計画的陳腐化による不況の終焉(Ending the Depression Through Planned Obsolescence)』(1932年)により命名された。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A8%88%E7%94%BB%E7%9A%84%E9%99%B3%E8%85%90%E5%8C%96

[17] Ellen MacArthur Foundation (2021). Completing the picture: How the circular economy tackles climate change

[18] Zhan J. et al. (2020). Global value chain transformation to 2030: Overall direction and policy implications https://voxeu.org/article/ global-value-chain-transformation-decade-ahead

[19] 解熱、鎮痛薬の一種


Ⅵ. 都市における交通からの排出量削減

インタビューしたCIREDのVincent Viguié博士はさまざまな政策が都市においてどのように排出量を削減できるかをモデル化することに取組んでいる。これに関連した論文をNature Sustainabilityに発表した[20]。また、CarbonBriefで概要を説明した[21]。

Viguié博士らは、5大陸にわたる120都市の交通政策を包括的に分析し、都市が住民の生活の質を損なうことなく、二酸化排出量を合計22%削減できることを示した。個々の都市では、燃料税、公共交通機関の改善、都市計画などの政策を組み合わせることで、交通機関から排出されるCO2を30%以上削減できることを示した。

特定の政策の影響は、それが実施される都市によって異なっている。公共交通機関の発展が15年後のCO2排出量に及ぼすさまざまな影響を分析した。

Viguié博士らは交通費、平均住宅価格、大気質、騒音公害、交通事故およびアクティブな移動(車の代わりに徒歩や自転車を使う)に関連する健康上の利点についても調査した。都市によっては、これらの影響は全体としてプラスにもマイナスにもなり得る。燃料税や新しい公共交通機関の開通は、大気質を改善し、騒音公害や交通事故の数を減らすことが期待される。一方で、都市のスプロール化を制限する都市計画は、住宅価格の上昇に寄与する可能性があり、公共交通機関の導入には非常に費用がかかる場合がある。図4は、バス高速輸送システム、燃料効率、燃料税、都市のコンパクト化が健康影響や経済影響に与える影響を推計したものである。

Viguié博士によると、120都市のそれぞれにおいて、交通関連の温室効果ガス排出量を削減し、福祉の貨幣換算値を下げない政策の組み合わせが少なくとも1つ存在することがわかった。これらを組み合わせると、15年間で都市交通からの温室効果ガス排出量が合計22%削減される。これは、検討したどの都市でも、住民の生活の質に影響を与えることなく、シミュレーションした排出量削減のほとんどが達成できることを意味する。


[21] Liotta, C., Viguié, V., Creutzig, F. (2023) Environmental and welfare gains via urban transport policy portfolios across 120 cities. Nat Sustain 6, 1067–1076. https://doi.org/10.1038/s41893-023-01138-0

[22] Viguié, V., Liotta C. (2023) Guest post: How 120 of the world’s major cities could cut transport CO2 by 22%. CarbonBrief. https://www.carbonbrief.org/guest-post-how-120-of-the-worlds-major-cities-could-cut-transport-co2-by-22/


図 4. 気候変動政策が人口福祉のさまざまな要素に与える影響。健康への影響は青で、経済への影響は黄色で示されている。各点はサンプル内の都市を表す。ボックスは 25 パーセンタイルから 75 パーセンタイルの範囲を表し、中央の水平線は都市全体で最も一般的な (中央値) 値を表し、ヒゲは四分位範囲の 1.5 倍に相当する。

出典:Viguié, V., Liotta C. (2023) Guest post: How 120 of the world’s major cities could cut transport CO2 by 22%. CarbonBrief.

Ⅶ. 充足性(sufficiency)などの持続的発展からみた需要側の行動

CIREDのThomas le Gallic博士によると、ライフスタイルの変化は需要の減少に大きな役割を果たす可能性があるが、ライフスタイルの変化に対する政策の影響は現時点では不確実であり、さらなる研究が必要とのことである。しかし、低炭素目標を達成するにはライフスタイルの変化が鍵であるという認識がヨーロッパで高まっている[22]と同氏は述べた。 Costa らは (2021) は、行動の変化が 2050 年までに実質ゼロに達するために必要な温室効果ガス総排出量削減の 20% 以上に寄与する可能性があると推定した。

Millward-Hoplinsら[23]やVitaら[24]は、一定の需要レベルを超えると、幸福と需要が切り離されることを強調している。彼らは、まともな生活(Millward-Hoplinsら)、十分さ(Vitaら)の概念を通じて、幸福を損なうことなく活動ベルを下げる革新的な解決策を模索している。

Le Gallic博士からインタビュー時に示された充足性評価における研究ギャップを図5に示す。

図 5 充足性評価における研究ギャップ

出典:Thomas Le Gallic(2023). 10月10日のLe Gallic博士のインタビュー用資料

UCLのPye教授からは、「充足性(sufficiency)に関するアイデアに興味を持っている。一緒に論文9を書いたLeeds 大学のJohn Barrett教授とは、充足性について、よく話し合っている。誰もが成長することは非常に重要なので、脱成長 (degrowth) には用語の問題がある。充足性という考えは潜在的に人々にとってより受け入れられやすいものであり、すぐに障壁を設けるものではない。これは非常に興味深い分野であり、私たちの研究の多くが向かうところである。」との発言があった。


[22] Costa, L. et al. (2021) The decarbonization of Europe powered by lifestyle change. Environ. Res. Lett. 16. 044057. https://iopscience.iop.org/article/10.1088/1748-9326/abe890

[23] Millward-Hoopkins, J. et al. (2020) Providing decent living with minimum energy: A global scenario. Global Environmental Change 5, 1021168

[24] Vita, G., Hertwich, E., Stadier, K., Wood, R. (2018) Connecting global emissions to fundamental human needs and their satisfaction. Environ. Res. Lett. DOI 10.1088/1748-9326/aae6e0


VIII. おわりに

このままの温室効果ガスの排出が続くと、近い将来に世界平均気温は1.5℃を超える可能性が高い。適応にも限界がある。気温が上昇するとエアコンの使用が増え、気温上昇を加速させる可能性がある[25]。また、停電になると甚大な被害を及ぼす可能性がある。需要側のエネルギー需要を減らすことによる温室効果ガスの排出量を削減することはますます重要になってきている。しかし、対応すべきことは多い。

電気自動車の普及は温暖化対策としては有効である。しかし、CO2を排出しない電気を使わないと、大気汚染対策としては有効であっても、温暖化対策としては限定的である。また、レアメタルが必要なことや、廃棄についても問題が指摘されている。再生可能エネルギーについては、環境影響が指摘されている。

今後必要なことは、エネルギー需要を減らす生活への移行である。ライフスタイルの変化と充足性に関する研究・調査は最近注目を集めている。一方で、政策がライフスタイルに与える影響の評価は初期段階で、ライフスタイルの変化が幸福に及ぼす影響の評価は今のところ非常に限定的とのことである。今後エネルギー充足性に対する研究や政策がますます必要となってくる。

サービス需要削減には適切な政策が重要である。例えば、コンパクト・シティの開発や公共交通の利便性の強化には政策の後押しが必要である。一方で、個人や企業でできる取組もたくさんある。今後さらに、種々の角度からの需要側対策が進み、温室効果ガス排出量が削減されることが必要である。


[25] Viguié et at. (2021) When adaptation increases energy demand: A systematic map of the literature. Environ. Res. Lett. 16. https://doi.org/10.1088/1748-9326/abc044


インタビューした専門家のリスト

1. Yann Briand:Institut du Développement Durable et des Relations Internationales (IDDRI), 持続可能な開発と国際関係研究所研究所、パリ、フランス。交通部門での脱炭素対策に詳しい専門家。2023年10月9日10:00-11:00。
2. Vincent Viguié: Centre International de Recherche sur l’Environnement et le Développement (CIRED), Nogent-sur-Marne, フランス。温暖化の緩和・適応政策の専門家。2023年10月10日15:30-16:00。
3. Thomas de Gallic: Centre International de Recherche sur l’Environnement et le Développement (CIRED), Nogent-sur-Marne, フランス。温暖化の需要側対策の専門家。2023年10月10日16:00-16:30。
4. Steve Pye: University College London (UCL)、ロンドン、英国。温暖化対策モデルの専門家。需要側対策に焦点を当てたモデル分析も行っている。2023年10月13日13:30-14:30。

需要側削減に関する参考文献

1. Barrett, J., Pye, S., Betts-Davies, S. et al. (2022) Energy demand reduction options for meeting national zero-emission targets in the United Kingdom. Nat Energy 7, 726–735. https://doi.org/10.1038/s41560-022-01057-y
英国では、国民の生活の質を損なうことなく、2020年レベルと比較して2050年までにエネルギー需要を52%削減することが可能であることを示した。移行シナリオが示すエネルギー需要の削減が進めば、高リスクの二酸化炭素除去技術への依存を減らすことができること、このためには、ある程度の投資が必要であり、気候変動対策の野心を高める必要があることを示した。国の気候政策はエネルギー供給と需要削減について、統合した政策を進める必要があると結論付けている。

2. Costa, L. et al. (2021) The decarbonization of Europe powered by lifestyle change. Environ. Res. Lett. 16. 044057
ライフスタイルの変化が温室効果ガス(GHG)排出量削減に与える影響をヨーロッパを対象として分析し、2050年までのネットゼロに必要なGHG排出削減量全体の20%以上に貢献する可能性があることを示した。

3. Creutzig, F., Niamir, L., Bai, X. et al. (2022) Demand-side solutions to climate change mitigation consistent with high levels of well-being. Nat. Clim. Chang. 12, 36–46. https://doi.org/10.1038/s41558-021-01219-y
回避、シフト、改善に分類された需要側のオプションの緩和の可能性と、それらの人間の幸福のリンクを体系的に評価した。これらのオプションは、社会行動、インフラストラクチャ、技術の領域を考慮することで、最終用途部門でベースラインと比較して部門別排出量を40~80%削減できることを示した。

4. Escribe, C., Vivier, L, Giraudet, LG., Quirion, P. (2023) How to allocate mitigation efforts between home insulation, fuel switch and fuel decarbonization? Insights from the French residential sector. ffhal-04200061v2f. https://hal.science/hal-04200061/document
住宅の断熱、低炭素暖房システムへの切り替え、暖房用燃料の脱炭素化という3つの方策が、フランスの温室効果ガス (GHG) 排出量の削減に与える影響について評価した。カーボンニュートラルを達成するための最も費用対効果の高いベストなシナリオを想定すると、住宅の断熱によって20%、燃料切り替えによって36%、燃料の脱炭素化によって45%の排出量を削減できることがわかった、また、一律に補助金を与えるシナリオ、包括的な検討をするシナリオ、エネルギー削減に応じた補助金の3つの代替シナリオについても検討している。

5. Harry-Villain, L., Briand, Y., Waisman, H., Major, M., Castillo, L. (2021) Companies and carbon neutrality, a story of systemic transformations and cooperation: Illustration on the freight transport sector, Iddri, Note, November. https://www.iddri.org/sites/default/files/PDF/Publications/Catalogue%20Iddri/Autre%20Publication/202111-Note%20transport.pdf
交通部門でのネットゼロ達成するための手段として、1)既存の産業プロセスを再検討して貨物輸送の数を削減すること、2)製造施設とサプライヤーを刷新して、サプライチェーンを削減すること、3)物流組織の変更と輸送サービスレベルを引き下げることにより、物流の統合を支援し、モーダルシフトを促進すること、の3つを取り上げ、それらの施策の有効性と課題を検討している。

6. Millward-Hoopkins, J. et al. (2020) Providing decent living with minimum energy: A global scenario. Global Environmental Change 5, 1021168
人間の活動は生態系に多大な影響を与えている。一方で、地球上の何十億もの人々が基本的な物質的ニーズを満たされていない。世界に住む全員がまともな物質的生活をおくるとともに、生態系にできるだけ影響を与えないためには、あらゆる分野にわたる先端技術の大規模な展開と、需要側の抜本的変化を通じて、消費を十分なレベルまで下げる必要である。

7. Viguié, V., Liotta C. (2023) Guest post: How 120 of the world’s major cities could cut transport CO2 by 22%. CarbonBrief. https://www.carbonbrief.org/guest-post-how-120-of-the-worlds-major-cities-could-cut-transport-co2-by-22/
5大陸にわたる120都市の交通政策を包括的に分析し、都市が住民の生活の質を損なうことなく、二酸化排出量を合計22%削減できることを示した。また、個々の都市では、燃料税、公共交通機関の改善、都市計画などの政策を組み合わせることで、交通機関から排出されるCO2を30%以上削減できることを示した。

8. Vita, G., Hertwich, E., Stadier, K., Wood, R. (2018) Connecting global emissions to fundamental human needs and their satisfaction. Environ. Res. Lett. DOI 10.1088/1748-9326/aae6e0
持続可能なQOLを確保するには、人間のニーズを満たすことが環境に与える影響を理解する必要がある。ニーズレベルでQOLと環境への影響を評価するには、主観的満足度と客観的満足度の両方を考慮して、人間のニーズを満たすことと環境破壊を切り離す方策を見つけることが重要である。

本レポートは専門家へのインタビューをまとめたものですが、インタビュー内容の文責は本レポートの執筆者にあります。

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2024年7月作成

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