INTERVIEWインタビュー
低炭素投資を促す金融政策が不可欠
Jean-Charles Hourcade 1.5℃特別報告書 第4章主執筆者
インタビュー実施日:2018年10月18日/場所:Etudes(14rued’Assas)(フランス・パリ)
甲斐沼: 1.5℃特別報告書の主要メッセージについて、また、1.5℃特別報告書がどのような意義を持っているかお考えをお聞かせいただけますか。
Hourcade: 0.5℃の変化は重要です。2℃上昇する場合と、1.5℃上昇する場合では、気候変動影響に随分違いが出てきます。1.5℃に温暖化を抑える意義は大きいと考えます。
温暖化政策が変わらなければ非常に厳しい気候変動影響が起きる確率が高いです。問題は対策ができるかどうかではなく、どのような条件が整えば地球温暖化を1.5℃以下に抑えられるかを議論し、それをすべて実行することです。炭素の価格付けだけでは十分ではなく、規制などを組み合わせて対策を進める必要があります。トランジションを進めるためには、追加的資源を流動化し、柔軟なメカニズムを導入して、社会的、経済的費用を下げることが重要です。
また、気候変動を1.5℃に抑えるためには、投資を低炭素技術に誘導する必要があります。
甲斐沼: 低炭素技術への投資について強調したい点をお聞かせ下さい。また、どうすれば投資を低炭素技術に誘導できるとお考えでしょうか。
Hourcade: エネルギーシステムへの追加投資が世界総固定資本形成に占める割合は2015年から2035年の平均で約1.5%です(為替レート換算)。インフラストラクチャーへの投資も含めると、約2.5%となります。追加投資はGDPの約0.6%で、貯蓄に占める割合は約2.5%です。このオーダーの投資を低炭素技術・インフラに行うことは十分可能であると考えます。
政府による長期的な目標設定と、保証制度を導入することで、投資を低炭素技術へと誘導することができると考えます。各国、公的負債が大きくて難しい面もありますが、低炭素プロジェクトに対して、たとえ少額でも政府保証することによって、投資(ボンド、銀行、機関投資家など)を誘発できると考えます。公的な保証によって投資リスクを減らすことが重要です。
甲斐沼: 途上国への低炭素投資についてはいかがでしょうか。
Hourcade: 途上国への低炭素投資に対して、リスク軽減のために、先進国が一部保証することも考えられる選択肢かもしれません。必ずしもすべてのプロジェクトが成功しなくても、全体的に利益の方が大きくなる可能性は高いと考えます。
甲斐沼: 低炭素投資の可能性と、今後の課題や留意点についてお聞かせ下さい。
Hourcade: 不動産に投資するか、低炭素資産に投資するかという選択肢に対して、長期的に考えれば、低炭素資産に投資するメリットはあると考えます。また、低炭素資産への投資は会社の信頼性向上にも貢献します。一方で、低炭素投資へのリスクの取り方を明確に設計しておく必要もあります。石油産業への投資については、座礁資産になる可能性があります。気候変動を1.5℃に抑えるためには、種々の政策を組み合わせる必要があります。金融政策のリスクを下げ、長期的な低炭素資産を形成するには、国家政策と国際政策、価格政策と非価格政策とをお互いに補完し合えるシステムが必要であると考えます。
甲斐沼: ありがとうございました。