COP21サイドイベント : アジアはどこまで減らせるか?-「Enabling Asia to Stabilise the Climate」刊行記念イベント
会場: COP21 日本パビリオン
主催: 公益財団法人地球環境戦略研究機関 (IGES)
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http://link.springer.com/book/10.1007/978-981-287-826-7
サイドイベントプログラム
■ 基調講演
アジアはどれだけ削減できるか?アジアから世界へのメッセージ
- Dr. P. R. Shukla, インド経営大学院教授, 気候変動に関する政府間パネル第三作業部会( IPCC WG III)共同議長
■講演
ベトナムにおける低炭素発展の潜在可能性
- Dr. Nguyen Tung Lam ベトナム天然資源環境相戦略計画研究所 (ISPONRE) 総合研究局長
「科学から行動へ」マレーシアの持続可能な低炭素都市
- Dr. Ho Chin Siong マレーシア工科大学教授
インドネシアにおけるREDD+からの温室効果ガス管理機構 気候変動国際技術・訓練センター 部長
- Dr. Rizaldi Boer ボゴール農科大学教授
アジアのリープフロッグに向けた能力構築
- Dr. Jakkanit Kananurak タイ温室効果ガス管理機構 気候変動国際技術・訓練センター(CITC)部長
科学的な政策形成:LoCARNet の活動について
- 石川智子 公益財団法人地球環境戦略研究機関 (IGES)主任研究員
総括
アジアにおける科学的な気候政策の形成に資する日本の包括的かつ継続的な支援パッケージ
- 西岡秀三博士 公益財団法人地球環境戦略研究機関 (IGES)研究顧問, 低炭素アジア研究ネットワーク(LoCARNet)事務局長
■質疑応答及びコメント
議長:藤野純一博士 国立環境研究所(NIES)主任研究員
COP21に始まる10年は、人類存在を賭けた世界文明の大転換の時期である。成り行きで進めば2050年には経済力・エネルギー消費・二酸化炭素排出で世界の半分を占めるとみられるアジアが本気で動かなければ、とてもその世界的・歴史的転換は不可能である。他方で、この大転換の入口で、過去の高炭素型社会に縛り付けられていない(ロックインされていない)アジアの国にとって、現在の力強い発展を低炭素社会構築の方向に導くことができれば、今はまさに新たな低炭素文明をアジア主導で作り上げる千載一遇の好機であり、それはまた世界が待ち望むことでもある。
低炭素アジア研究ネットワーク(LoCARNet)は、アジアの低炭素発展の実現を志す研究者とともに、「Enabling Asia to Stabilise the Climate」を執筆しているところ、このサイドイベントを契機に本書のローンチを行い、アジアから世界への発信の機会としたい。
この本の構成は以下のとおりである。第一部では、アジアが世界的に見て気候安定化のカギを握ること、そして温室効果ガス排出を少なくしながら発展する可能性が十分にあることを、アジアのAIMモデル研究者による分析で考察する。また、第二部では、モデルを使った考察が国レベル、都市レベルの低炭素発展政策に現実に取り入れられ、政策形成に有効に働いている例を紹介する。さらに第三部では、可能とされる削減を現実に実施するために各国主要政策分野で進められている施策において如何にして障壁を乗り越えるか、これまでに進められているグットプラクティス(優良事例)を紹介する。
本サイドイベントでは、本書の編者である西岡秀三LoCARNet事務局長によるイントロダクションののち、各パートの執筆者から上記構成に沿って本書の紹介を行い、アジアの国々がどのようにして低炭素社会を構築していこうとしているかを、アジア各国および世界に発信し、低炭素社会構築に向けて世界規模の協力をさらに推進することを目的としている。
キーメッセージ
- 世界的な低炭素社会へ転換は、アジアの国それぞれにとって、自国の世紀にわたる将来を決める大きな方向づけである。それぞれの国や地方の発展政策形成を(外国に頼ることなく)自らの知恵で形成する体制の構築が必要である。それぞれの国が自分のよって立つ状況をふまえ、それぞれの国の将来を、その国を愛するその国の人々自身で道を切り開いてゆく必要がある。
- これはアジアが直面する歴史的な挑戦であるが、同時に、アジアの国にとっては低炭素世界をリードする絶好のチャンスにもなりうる。日本はこれまでの20年にわたり、温室効果ガス削減に向けた多くの国際協力をアジア諸国と続けてきている。
セッションサマリー
はじめに、P. R. Shukla教授が、「Enabling Asia to Stabilise the Climate」の全体説明を行った。同教授は、この本が、アジアの国々がどのようにして低炭素社会を構築してゆこうとしているかをアジア各国および世界に発信するとともに、低炭素社会構築に向けて世界規模の協力をさらに推進することを目的としていると述べた。
本書は、アジアの低炭素発展の実現を真摯に志す専門家や研究者によって執筆された。Shukla教授の全体説明に続いて、複数の著者が本の内容について簡単な説明を行った。
本の第一部では、アジアが世界的に見て気候安定化のカギを握ること、そして温室効果ガス排出を少なくしながら発展する可能性が十分にあることを、中国・インド・日本・ベトナムおよびアジア全体にわたってのモデル分析で考察している。ベトナムのNguyen Tung Lam博士は、自身のモデル分析を紹介した。
第二部では、こうした考察が国レベル、都市レベルの低炭素発展政策に現実に取り入れられ、政策形成に有効に働いている例を紹介している。マレーシアのHo Chin Siong教授は、モデル分析の結果がイスカンダル地域の低炭素都市構築のシナリオとして適用されたことを紹介した。今世紀中に都市人口は世界的に70-80%を占めるとみられることから、都市が尖兵となっての低炭素社会形成が進むとみられており、同教授はイスカンダルのケースがその好例を示すものであることを強調した。
第三部では、可能とされる削減を現実に実施するために各国主要政策分野で進められている施策において如何にして障壁を乗り越えるか、これまでに進められている好例を解説している。ここで、Shukla教授は、低炭素化に向けた公共交通の推進やコンパクトで効率の良い都市形成を紹介し、また、インドネシアのRizaldi Boer教授は、炭素吸収やバイオマスエネルギーとしての森林保全が焦点となると述べた。また科学的政策形成のためには、教育・研究組織の形成が必要である。タイのJakkanit Kananurak博士は気候変動国際技術・訓練センターがASEANの国々の知識ハブとして機能してきている先端的実施例を示し、また、IGESの石川智子氏は低炭素アジア研究ネットワーク(LoCARNet)について、このネットワークが自国の研究者コミュニティを育て、政策担当者と知識コミュニティの対話により科学的政策形成を進め、地域での国際協力を最大限生かし地域での知識共有を深めていることを紹介した。
最後に、IGESの西岡秀三博士が、日本はこれまでの20年にわたり、温室効果ガス削減に向けた多くの国際協力をアジア諸国と続けてきていること、一方で、今はもうアジア諸国が自身のイニシャテブで低炭素アジアへの道を切り開いてゆくときに来ていると述べた。