ABOUTLCS-RNetとは?
気候中立社会実現のための戦略研究ネットワーク(LCS-RNet)は、2008年のG8環境大臣会合での日本提案から発足した、各国の気候政策に密接に関与する研究者・研究機関のネットワークです(2021年、設立当時の名称である「低炭素社会国際研究ネットワーク」から改名しました)。
ネットワークでは、日・独・仏・伊・英5か国の研究機関が中心となり、研究成果の共有・発信などを通じ、国際政策プロセスに貢献し、各国の国内政策プロセスへとフィードバックを行うとともに、さまざまな主体による気候中立社会の実現に向けた取り組みを支援してきました。
MISSIONネットワークの狙い
- この半世紀以内で気候中立社会への移行を完了するため、研究成果の共有・発信などを通じて、気候中立社会に関する研究を国際的に推進し、国際政策プロセスへ貢献するとともに、各国の(国内)政策プロセスへとフィードバックを行うこと。
- 研究コミュニティと、政策担当者、企業、市民などさまざまなステークホルダーとの対話を促進し、さまざまな主体による気候中立社会の実現に向けた取り組みを後押しすること。
VALUEネットワークの付加価値
LCS-RNetは、科学コミュニティによる、気候中立社会の実現に向けた政策立案・実装を促進するプラットフォームとして、他の類似の組織・団体と異なる次のような付加価値を有しています。
- 気候中立社会への移行を促進する包括的な研究能力:LCS-RNetは、ソリューション指向、多国間および分野横断的な研究を促進する研究者・研究機関のネットワークです。
- 政策立案・実装との緊密な協力:LCS-RNetの参加機関は、中央政府・地方自治体と緊密に連携しており、研究サイドからのインプットを適時に政策に反映していくことができます。
- 国際的な活動を生かした政策協力:LCS-RNetの参加機関は、UNEPやUNFCCCなどの国際機関、世界銀行やアジア開発銀行などの開発援助機関と連携するとともに、IPCCに関与する研究者を多く輩出するなど、国際社会との強いつながりを持っています。
- 気候中立社会の実現に向けた科学的知見の蓄積と発信:LCS-RNetは、ネットワーク内の緊密な協力、協働、知識交換を進めることにより研究コミュニティとして機能すると同時に、科学的知見をわかりやすくステークホルダーに伝えられるよう、近年発信にも力をいれています。
HISTORYネットワークの軌跡
LCS-RNetは、時宜に応じてネットワークの在り方を変えながら、臨機応変に喫緊の課題について議論してきました。こうした傾向は、これまで開催してきた年次会合に顕れています。
第一フェーズの活動(2009年~)
LCS-RNetは、年次会合を通じて気候政策の知識交換を促進し、共通の課題に関する研究を実施し、成果を展開し、政策提案を行い、こうした成果を各国の政策に反映してきました。年次会合での議論は統合報告書やジャーナルの特集号の形にまとめられ、各国およびUNFCCC / COP、学界、政策コミュニティなどの国際機関・関係者に報告され、また、各国の研究者を通じて政策に反映されてきました。
第二フェーズの活動(2014年~)
第二フェーズでは、世界の気候政策にとって重要な転換点となるCOP21への対応に注力しました。フランス・パリで開催された第7回年次会合では、エネルギーシステム、都市と土地利用、発展途上国との協力などの重要な議題に焦点を当て、上記の3つを横断する重要な課題として気候ファイナンスを取り上げました。また、年次会合での論議から得られた見解を、LCS-RNet声明「COP21:気候と持続可能性の正念場」にまとめました。
LCS-RNet声明のインパクト
この声明は各国政策に実際に深く関与する研究者・研究機関の連携による、「低炭素社会への転換」に向けた前向き、かつ統合的な研究に基づくもので、ノーベル賞受賞者や閣僚経験者、IPCCの議長・作業部会の共同議長・報告書執筆者など、47か国213名の署名による賛同を得てフランス政府に提出され、またCOP21期間中に複数のサイドイベントで紹介・論議されました。
この声明では、
- 社会・経済・環境的価値を加えたさまざまな形での「カーボンプライシング」をベースにした経済転換
- 「共通だが差異ある責任」原則の積極的解釈による途上国への「気候ファイナンス」の有効活用
- 技術移転を進めるための途上国能力開発強化と国際金融の方向付け
- 大きな社会転換に必要な都市システム、エネルギーシステムをはじめとする巨大な投資を「新産業革命」への引き金とすること
- こうしたさまざまな取り組みを実体経済に基づく新たな経済成長に結びつけることの重要性
などが述べられています。
第三フェーズの活動(2016年~)
COP21の顕著な成功により、世界は低炭素社会、さらには気候中立社会を実現するための「行動」へと大きな一歩を踏み出しました。これは、2016年以降、ドイツ(2016年)、英国(2017年)、日本(2018年)、イタリア(2019年)での年次会合の議論に反映されています。
これら年次会合では、
- 今後生じる非線形、また破壊的な大きな変化に対し、どのような政策・対策をとっていくべきか
- 経済発展や富の向上を目的とした戦略を、エネルギー変革や気候緩和・適応を目的とする国際投資プログラムにいかに合致させていくか
- 特に都市や基礎産業分野に注目し、政策と持続可能な開発目標全体との整合性をいかに確保するか
- 十分な根拠に基づく解決策や適切な行動戦略を提供するにあたり、重要さを増す科学の役割
などが議論されました。
第四フェーズの活動(2021年~)
気候中立社会の実現に向け、この半世紀以内にトランジションを完了しなければならないとの認識が高まるにつれ、研究コミュニティには、トランジションの最前線に踏み込み、研究結果を実際の政策や行動変容に反映することで解決策を見出していくことが期待されるようになりました。
LCS-RNetでも、参加している研究機関がそれぞれに関心の高いテーマを提案し、ネットワーク内で共同研究や共同活動を進める「コモン・アジェンダ・アプローチ」導入に移行しており、2021年以降、年次会合をこうした研究や活動の共有・発信の場として設定するようなアレンジが進んでいます。参考までに、2021年の年次会合では、「気候中立で持続可能な社会実現に向けた行動を加速する」をテーマに、産業の脱炭素化や、気候中立社会の実現に向けた雇用について、国際協力について、またファイナンスについての4つのセッションを開催しました。